(1991.7.5朝日新聞・夕刊ラジオ面「クローズアップ」
『子供のころの想い出は幻想的』フリーライター・山家誠一)
NHK・FM「FMシアター」(夜10・00)は津川泉・作「ひろば まぼろし」を放送する。物語は1992.7.1朝日新聞「スイッチ・オン」より
七日(日)のNHK・FM「FMシアター」(夜11・10)は、高岸優・作、角岡正美・演出の「白の森・不思議」を放送する。
バスツアーで乗り合わせた四人の女性たちは、実はツアーの途中で通る同じ「白の森」の出身であることが分かった。白の森は、ダムの底に沈んだ村だ。
「そうよ、あの桜が散るころになると村中の子供があの木の下に集まったものだわ、桜の花びらが雪のように。でも長くはいられない、心が空(から)になってしまうから」
子供のころの思い出は、ありふれた日常でありながら、なぜか、そして、どこか鮮烈な印象を持っている。
「男女(おとこおんな)」と呼ばれていたおてんばな少女は、桜の木のてっぺんで、幾重にも重なったピンク色と空の青さの境目の枝に、背にこぶのある男が座っているのをみたという。別の女性は、ツバキの木のそばで遊んでいた時のことを思い出す。「最初は七人、帰りは十四人。でもだれもそれを言わなかった。だってだれもかれも見覚えのある子なんですもの。途中から加わった子もないのに人数はふえている」
角岡ディレクターは、「例えば、子供は小っちゃいから桜がパラパラ散っていただけでも、なんか桜並木のように記憶してしまったり……」。だから、子供のころの記憶のカットは、いつも、幻想と現実が相互に入り交じるようなものとしてある。そして、鮮やか故に、しばしば「怪異の美」へと連想されていく。
バスが水底に沈んでいく終わり方には拍子抜けしたが、出演した四人の女性の声は、バランスと統一があって実に心地よい。