なぜ私が夢の島少女みてここまで心が打たれたのか、自分でも不思議なほどでした。
その理由を色々と考えたのですが、とりあえず3つに整理して考えて見たいと思います。
1、主人公 のサヨコの美しさ。
2、佐々木監督の演出(せりふのほとんど無い、静かで不思議な映像)
3、私の個人的な要因
これだけ多くの方がこの作品に引かれる要因のもっとも大きな
理由は
1のサヨコの美しさではないでしょうか?
中尾幸代さんの当時の年齢は18歳ですが、現在の同年齢の一般的な女性としてイメージされる姿とは
かなり違ったの存在と映るのではないでしょうか。
サヨコ‥‥真っ黒な黒髪で、おかっぱ頭。化粧無し。綺麗で透き通った肌。
彼女曰く、当時はファッションなどにはまるで興味が無いとのこと。
であるが故に デコレーションされていない素朴な美しさがある。
今時の同年齢‥‥茶髪。フワフワパサパサの髪の毛(軽く見える髪の毛が彼女らの嗜好)。
分厚い化粧。乱れた生活により荒れた肌。
ただしこれは私の一般的なイメージで実際に全てがこうでは当然ありません。
今時の女性を見慣れた自分からみて、まるで動く日本人形と言った形容のピッタリのサヤコは
日本女性の、いや人間の持っている本来の 「素」の美とはどういうものかを
改めて認識させるに十分な存在としてまず強烈な印象を受けたのです。
非常に近いアングルから舐める様なカメラの動きは、なぜかいやらしさを感じさせず、
それでいて、芸術的な美しさをこれでもかと見せつけてくれます。
多くの人が、見た瞬間に釘付けになったのは、まさにこのサヤコの美であったと思われます。
まるで、ゴキブリホイホイの粘着テープの様にちょっと触っただけ、ちょっと見ただけで
多くの視聴者が文字通り釘付けになったと想像されます。
そして、二番目の佐々木監督の演出。
サヤコの美に足を止めた視聴者は 佐々木監督の独特の映像美の中に完全に取りこまれて行ったと思われます。
勿論私も、その独特の世界に入りこみ もはや抜け出す事は出来なくなったのです。
しかし、全ての視聴者ではなく、おそらくははっきりと 二通りの反応に分れたと思われます。
「なんだ‥‥つまらない」 「退屈」 「よくわからない」
そういう感慨とともに直ぐにチャンネルを変えた人と、私達のようにその世界に取りこまれて行った人。
私の妻は 全く興味を持ってくれませんでした。妻は「暗い」と拒絶したのです。
たしかにそうかもしれません。この映像は決して明るくは有りません。
私は昔から映画を好み、特に嗜好はややカルト系の暗い映画を好みました。
「地獄の黙示録」 「ブレードランナー」こういった映画を好みました。
これらの映画は評価が真っ二つに分れているのは 映画に興味がある方ならご存知だと思います。
そして特徴的なのは、これらの映画には熱狂的なファンが存在すると言うことです。
否定されるが故によりその映画への思いが募っていくのでしょうか。
そう言う意味で「夢の島少女」はカルト系なのかもしれません。
10人に見せても それに引きこまれて行く人は2〜3人なのかもしれません。
しかしその2〜3人の人は 心を奪われ、その他大勢の人は、なぜ心が奪われるのか理解に苦しむのでしょう。
最後に三番目の理由。私の個人的な問題です。
私は最初にこのドラマを見たときに衝撃を受け、完全に虜になりました。
決して忘れる事が出来ず、もう一度見てみたいという欲望は日増しに強まります。
「もうこのドラマは二度と見ることは出来ない」 何度も自分に言い聞かせても決して自分の無意識の蠢きを抑え込む事が出来ないのです。
何故だろう‥‥ 映画好きで数多くの映画を見てきた私ですらはじめての経験です。
まるで、映画やドラマを見て感動したのではなく、むしろ、失恋したような気分と言った方が近いかもしれません。
私は色々考え、思い当たる節にぶつかりました。
それは無意識にこのサヨコとある女性を重ね合わせていたと言う事なのです。
その女性(Kさんとします)は、私には遠い存在でした。
まだ高校生の頃、未曾有の大惨事から生還したKさんは、家族を失い祖母と一緒に暮らして行く事を余儀なくされたのです。深く傷
つき、人間不信となったKさんの姿は当時連日テレビに映し出されたのでした。
そして私はそのKさんの美しさに心を奪われたのでした。
親を知らず祖母と暮らすサヨコ。傷付き人間不信となるサヨコ。
そして容姿やたたずまいまでがKさんにそっくりであることに気がついたのです。
高校生の多感な時期に、心を奪われたKさんという存在。
その時の想いが 時代を超えて蘇ったのだと悟りました。
決して埋め合わせる事の出来ない 心に出来た空洞。
どうしてここまでたった一つのドラマに心を奪われてしまったのか
今までにない経験に戸惑いを感じていた私はこれで納得がいったのです。
私はまだ佐々木監督の作品は本作品しか見ていません。
しかし、この作品一つで十分に佐々木氏の映像美を追求する類まれな感性を十分に感じ、理解する事が出来ました。
全てが便利になり、飾られて、加工され、タイムリーになり、テンポは速く、即物的に成りそれを普通と思うようになってしまった現代人。
25年もの歳月を経て色あせる所か、むしろ現代の我々への強烈なアンチテーゼを付きつける為に蘇ったとのだと思います。
それであるが故に 私のような現代に疲れた男は「夢の島の少女」にノスタルジーを感じ、癒されるのでは無いでしょうか。
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