ギターよ、

お前はどこからやって来た

ギターは答えた

ジブラルタルの海から

グァダルキヴィル川を遡り

風にはこばれ

ジプシーの手に抱かれて
 

　ピアノ調律師栄子（中尾幸世）が、アンダルシア地方グアダルキビル川の人びとと出会い、一夏の生活を送る設定である。女主人公の栄子は、どのシーンでも人びとの普遍的な魂に一直線に進む。鍛冶屋のペペ、洞穴掘りの名人マヌエル、数学嫌いの少年ホアン、フラメンコ・ダンサーのピーリー、ギター作りのアルファンソ――など。白と赤の色彩美。赤いトマトの赤は、文明への痛烈なシッペ返し。市場にはジプシーの人びとのものを売る声がとびかう。抑制に抑制を重ねた表現から生活のニュアンスがこぼれでてくる。

　ギター作りのアルフォンソ「働き続けて苦しかった。でも出会えてうれしかった」。栄子の涙。悠久のグアダルキビル川の流れから見れば一瞬のふれあいであったとしても、ここには同じ世界の苦しみがある。それを同伴することのできる心だけが感じる人間の条件だ。少年ホアンは栄子の自転車を新品同様に修理する。ホアンのまだ若い人生での自転車のエピソードは、心の贈り物をも加味してはいないか。

　栄子の“やさしさ”、アンダルシア地方の人びとの表情は、現代という同時代が傷つけたものの反世界にある核心そのものである。
　 　　　　　　　　　（月刊｢ドラマ｣1983.5　鳥山拡の目20（「アンダルシアの虹」の佐々木昭一郎）より抜粋引用）



　「川」シリーズの第２作。多摩映画祭でのトークにて、中尾幸世さんご自身が最も好きな作品と仰っていました。